2025年6月、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、トランプ米大統領が連邦準備制度理事会(FRB)の次期議長の人選について、通常よりも早期に選定・発表を行う方向で検討していると報じた。これは、現職のジェローム・パウエルFRB議長の任期満了(2026年5月)を前に、9月〜10月、もしくは今夏中にも後任候補を明らかにする可能性があるという内容だ。
市場ではこの報道を受けてドルが売られ、円高方向に反応するなど、為替にも一定の影響が出ている。パウエル氏の続投に対するトランプ氏の不満は、かねてから繰り返し報じられており、FRBの独立性を巡る議論にも再び注目が集まっている。
■再選後も続くパウエル批判 “利下げ拒否”が主因
パウエル氏は2018年、当時のトランプ政権下でFRB議長に任命された人物である。しかし、就任後まもなく始まった米中貿易摩擦や株式市場の変動に対し、パウエル氏が利上げスタンスを取り続けたことから、トランプ氏は度々不快感をあらわにしてきた。SNS上で「パウエルは何も分かっていない」と批判したこともあり、両者の関係は決して円満とは言えなかった。
2025年の大統領再選後も、トランプ氏のスタンスは変わっていない。今年に入り、景気の減速懸念やエネルギー価格の不安定化が進む中でも、FRBはインフレ懸念から政策金利の据え置きを継続。利下げへの慎重な姿勢を貫いてきた。
一方のトランプ大統領は、選挙公約でも「金利を下げて経済を活性化する」と掲げており、物価上昇の沈静化を理由に、より迅速な利下げをFRBに求めている。議会証言など公の場で繰り返される「利下げは時期尚早」とのFRB幹部の発言は、大統領側から見れば“反抗的”とも映る。
■有力候補に“トランプ色”の人選
WSJの報道によれば、後任候補には以下のような人物が挙げられている。
- ケビン・ウォーシュ氏(元FRB理事)
- ケビン・ハセット氏(国家経済会議=NEC 元委員長)
- ベッセント財務長官
- デービッド・マルパス氏(元世界銀行総裁)
- クリストファー・ウォラーFRB理事
いずれも共和党に近い立場にある人物であり、トランプ大統領との信頼関係が厚い。とりわけウォーシュ氏は、リーマン・ショック後の金融危機対応に深く関与した経歴を持つほか、量的緩和に対する慎重姿勢でも知られている。一方で、ウォーラー現FRB理事は2020年にトランプ政権下で任命され、利下げに理解を示す姿勢を持つとされている。
■FRBの独立性はどうなるか
米国では伝統的に、中央銀行であるFRBの独立性が極めて重要視されている。議会や大統領府の意向に左右されない中立的立場から、インフレの抑制や雇用の安定といった政策判断を下すことが期待されている。
しかし、トランプ氏は第1次政権時代から、FRBの政策運営に対して公然と注文をつけてきた稀有な大統領の一人でもある。今回のように、任期満了まで約1年を残して後任を模索する動きは、金融市場にとって「中央銀行の政治化」とも捉えられかねないリスクを孕む。
仮に利下げに前向きな人物をFRB議長に指名すれば、短期的には市場に歓迎される可能性もあるが、長期的な金融政策への信認に影響が出る懸念もある。
■今後の焦点は「市場との対話」
現在の米国経済は、物価の安定が進みつつある一方で、個人消費の鈍化や景気後退リスクといった複数の不安要素を抱えている。FRBはこれまで、経済指標に応じた「データ依存型」の政策判断を重視してきたが、もし新議長がトランプ大統領の意向を強く受けた人選となった場合、政策の中立性や予見可能性が失われる恐れがある。
現時点では、トランプ氏による議長指名が実際に早期化されるかは不透明だが、9月以降のFOMC(米連邦公開市場委員会)の行方や、上院の人事承認プロセスを含め、今後の金融政策を巡る市場との対話が重要性を増すことは間違いない。
2025年後半の米国経済は、金融政策の転換点と政権の政治的思惑が交錯する極めて流動的な局面を迎えている。
株式会社アイリンクインベストメント
マーケットストラテジスト 岩本壮一郎

