40年債利回り4%突破が鳴らす、財政規律への警鐘
20日の債券市場の動きは、単なる「金利の調整」で片付けられるものではありませんでした。
足元の数字を直視してください。 長期金利(10年債利回り)は2.330%へと急伸。超長期の40年債利回りは、ついに4.005%と4%の大台を突破しました。さらに、本来であれば日銀の金融政策の影響を色濃く受けるはずの中期ゾーン、5年債利回りまでもが1.715%へと上昇しています。
イールドカーブ(利回り曲線)全体が上方へシフトするこの動きは、市場が「日本国債のリスクプレミアム」を上乗せし始めたことを意味します。 この背景にあるのが、かつて英国を襲った悪夢、「トラス・ショック」の再来リスクです。
英国の悪夢と、日本の「今」
時計の針を2022年9月に戻しましょう。 英国のトラス政権(当時)は、財源の裏付けのない大規模な減税策を発表しました。これに対し市場は、「インフレ下のバラマキは財政を破綻させる」と冷徹に判断。猛烈な国債売り(金利急騰)と通貨売り(ポンド安)の「トリプル安」を浴びせ、政権を崩壊させました。
では、今の日本はどうでしょうか。
衆院選を前に、与党・高市首相は「食品消費税の2年間撤廃」を示唆し、野党・中革連は「食料品消費税ゼロ」を公約に掲げました。 どちらが勝っても、財源なき大型減税が行われる――。 この構図は、トラス・ショック直前の英国と不気味なほど酷似しています。
想定される「負の連鎖」シナリオ
もし日本で「トラス・ショック」が起きた場合、どのようなシナリオが想定されるのでしょうか。市場が恐れているのは、以下のようなメカニズムです。
1. 「悪い金利上昇」の加速 景気回復に伴う「良い金利上昇」ではありません。財政への信認低下による「悪い金利上昇」です。今回、40年債が4%を超えたことは、海外投資家が日本の超長期的な財政健全性に疑問符を付け始めたシグナルとも取れます。
2. 国内金融機関のアキレス腱 英国では年金基金(LDI)が火種となりましたが、日本では大量の国債を保有する地域金融機関や生損保がアキレス腱となります。 金利が短期間で急騰すれば、保有国債の価格は暴落し、巨額の含み損が発生します。自己資本毀損の懸念から、金融機関はリスク回避のために国債を投げ売りせざるを得なくなり、これがさらなる金利上昇を招くスパイラルに陥ります。
3. 通貨安とインフレの激化 通常、金利上昇は通貨高(円高)要因です。しかし、財政信認の喪失による金利上昇は「日本売り」を伴うため、急激な「円安」を招くリスクがあります(英国もそうでした)。これが輸入物価を押し上げ、国民生活を直撃するインフレを加速させます。
債券自警団からの「警告射撃」
今回の2.330%という数字、そして40年債の4%台乗せは、政治に対する「債券自警団(Bond Vigilantes)」からの警告射撃かもしれません。
「選挙対策のバラマキをこれ以上続ければ、相応のコスト(金利急騰)を支払わせる」 市場は今、そう語りかけています。
政治がこの警告を無視し、無秩序な財政拡張に走った時、私たちの目の前には「日本版トラス・ショック」という現実が待っているのかもしれません。
現在の株高バリエーションが本当に正当化されるのか。日本だけが英国のようにならないという確たる根拠はあるのか。 私たちは今、極めて危うい分岐点に立っています。足元の金利動向から、片時も目が離せない状況です。
株式会社アイリンクインベストメント
ストラテジスト 岩本壮一郎

