【特集】関税と市場を揺らす「TACO取引」──トランプ大統領の関税戦術に市場はどう反応しているか
執筆:岩本壮一郎
2025年6月現在、米国市場を取り巻く最大の関心事の一つが、ドナルド・トランプ大統領による対外関税政策です。とりわけ、金融市場関係者やアナリストの間で注目を集めているのが、「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつもビビって引き下がる)」という造語です。
この言葉は、トランプ大統領が対中・対EUなどの貿易相手国に対し関税引き上げをちらつかせた後、土壇場で延長や撤回、適用除外といった緩和措置を発表するパターンを揶揄したもので、「TACO取引(TACOトレード)」として知られつつあります。近年の金融市場では、この“交渉術”が相場材料として組み込まれるまでになりました。
実際、米政権は5月31日に期限を迎える予定だった一部中国製品への関税適用除外措置を8月末まで延長。これを受けて香港ハンセン指数や台湾加権指数、上海総合指数などアジア株が軒並み上昇しました。
一方で、債券市場や為替市場では様相が異なります。TACOへの不信感から米国売りが進行し、長期金利の低下やドル安・円高が進行するなど、株式市場との温度差が顕著に表れています。
このような市場の動きに対し、トランプ大統領は記者会見での「TACO」質問に強く反発。記者の「ウォール街では、関税政策でビビって引き下がると見られている」との指摘に対し、「それは交渉だ」「意地の悪い質問だ」と不快感を示しました。
トランプ大統領の関税スタンスに市場が振り回されるのは今に始まったことではありませんが、英フィナンシャル・タイムズのコラムニスト、ロバート・アームストロング氏が名付けたこの「TACO」は、今後の市場を占う新たなキーワードになりつつあります。
さらに、「米国を再び偉大に(MAGA)」に似た、トランプ米政権にまつわる4文字の造語がインターネットを中心に広がっています。「トランプはいつも腰砕け(TACO)」に加え、グリーンランド領有問題に関しては「アメリカよ去れ(MAGA=Make America Go Away)」と揶揄されることもあり、政策転換のたびに風刺的表現がSNSやメディアを通じて共有されてきました。
こうした新語の広がりは、政策への信認の揺らぎを物語ると同時に、金融市場がトランプ政権の言動に対していかに敏感かを示しています。今後、市場は「本当にトランプ大統領が関税を発動するのか、それともまたチキンアウトするのか」を注視し、TACO取引を相場戦略の一部として扱う傾向がさらに強まることが予想されます。
TACOという4文字が、2025年のマーケットの地図を読み解く一つのカギとなるかもしれません。
岩本壮一郎(いわもと・そういちろう)
株式会社アイリンクインベストメント代表/マーケットストラテジスト

